まず、民法上、遺言書の方式は大きく分けて3種類です。
1.自筆証書遺言
2.公正証書遺言
3.秘密証書遺言
※他にも特別方式の遺言として、「死亡危急者遺言」・「船舶遭遇者遺言」・「伝染病隔離者遺言」・「在船者遺言」が民法の規定にありますが、その名の通り、1~3が不可能なほど死が差し迫った特別な状態のときなど、登場のシーンがかなり限定的ですので、今回は省略します。
1~3についても、それぞれの特長はもうすでに、他のウェブサイトなどでも詳細に解説されたものがたくさん出回っていますので、今回は遺言書の種類で迷った場合の判断の参考になるような情報をお伝えします。
1.自筆証書遺言
遺言する人が自筆(紙に手書きのみ・パソコンやスマホで作成したものや音声や動画を保存したものは不可)で全文を書き、押印して作成します。財産目録のみ民法改正日である、2019年(平成31年)1月13日以降に作成されたものなら手書きでなくてもよくなりました。
そして、その自身で作成した遺言書の保管方法として、①自身で保管 または ②法務局遺言書保管制度を利用して法務局で保管 の2つが選べます。メリットデメリットについては以下にまとめてみました。
【①②共通のメリット】
・証人が不要
【①②共通のデメリット】
・遺言者が財産目録を除くすべてを自力で記入・押印することが要件となっているため、自力ですべてを記入できるだけの体力がなくなってしまってからではこの方式を選択することができなくなる
【①自身で保管する主なメリット】
・自分の判断で自由に書くことができ、封印すれば誰にも秘密にできる
・3つの方法の中で最もお金がかからない
・内容を変更したくなっても、簡単に書き直せる
【①自身で保管するデメリット】
・紛失・改ざんの可能性や、相続が発生したとき相続人に遺言書があることに気づいてもらえない恐れがある
・相続人が家庭裁判所で遺言書検認の手続をとらなければならないので、相続人や遺言執行者はすぐに相続の手続きに入れない
・遺言書の方式に不備があれば遺言書が無効になるリスクがある
【②法務局遺言書保管制度を利用するメリット】
・遺言書の方式について法務局で確認してもらえるため、①のデメリット3つめにあった、遺言書の方式に関する不備は防げる
・法務局での保管期間が長く(原本:遺言者死亡後50年・画像データ150年)、紛失や改ざんの恐れがなく、相続開始後、相続人などに遺言が法務局に保管されている旨の通知が届くため、気づいてもらえない可能性が低くなる
・保管申請にかかる手数料が定額で安い(2025年7月15日現在3,900円)
・相続人が家庭裁判所で遺言書検認の手続をしなくてよいため、スムーズに相続手続を開始できる
【②法務局遺言書保管制度を利用するデメリット】
・法務局で保管申請するのに代理人が認められていないため、遺言者本人が法務局に予約をして出向く必要がある(自力で外出が困難な方には難しいケースがあります)
・用紙サイズや余白の範囲など、法務局が定めたルールに則って作成する必要がある
2.公正証書遺言
公証人と事前に打ち合わせの上で、作成当日は証人二人にも立ち会ってもらい完成させる遺言書です。
【メリット】
・公証人が関るため、安全で確実
・口頭で内容を伝え作成してもらえるため、手書きできない人にも遺言書を遺せるチャンス
・原本の保管期間が長く(遺言者の死亡後50年・証書作成後140年または遺言者の生後170年)、紛失や改ざんの恐れがない
・病院に入院中など、外出が難しい場合には、公証役場へ行かずとも、公証人に出張手数料を払い、来てもらうことができる
・相続人が家庭裁判所で遺言書検認の手続をしなくてよいため、スムーズに相続手続を開始できる
【デメリット】
・証人が二人必要(未成年者・推定相続人・遺贈を受ける人・推定相続人や遺贈を受ける人の配偶者や直系血族は証人になれません)
・公正証書遺言作成の手数料は相続財産の額に影響をうける
3.秘密証書遺言
遺言する人が自分で作成して、遺言書に押印した印鑑と同じ印鑑で封印し、公証役場へ持って行き、公証人と証人二人に封紙に証明してもらってから、持ち帰り、遺言した人自身でその遺言書を保管します。
【メリット】
・自分の判断で自由に書くことができ、遺言書の存在だけを推定相続人に知らせ、内容は誰にも秘密にできる
・公証役場へ支払う報酬額が定額なので、わかりやすい
・代筆やパソコン作成可能
【デメリット】
・証人が二人必要(未成年者・推定相続人・遺贈を受ける人・推定相続人や遺贈を受ける人の配偶者や直系血族は証人になれません)
・公証役場に予約の上で直接赴く必要があり、手続きが煩雑な割に、遺言書の内容に不備があった場合、無効になるリスクがある
・法務局遺言書保管制度を利用するよりは、費用が高い(最低でも公証役場へ支払う報酬が必要+証人を手配するのにも礼金が必要な可能性も有)
・相続人が家庭裁判所で遺言書検認の手続をとらなければならないので、相続人や遺言執行者はすぐに相続の手続きに入れない
・紛失・改ざんの可能性や、相続が発生したとき相続人に遺言書があることに気づいてもらえない恐れがある
当事務所で相談をお受けする場合、お客様の状況により1か2をお勧めしております。どちらがよいかはケースバイケースで、一人ひとり違うため、ここで画一的に申し上げることはできません。今まで遺言書の作成や相続のお手伝いをした経験や知識から、お客様の状態をお聞きし、どういう選択肢があるのか、その選択肢のメリットデメリットをお伝えすることができますし、1か2でしたら、ご希望の方には作成のサポートも可能です。3は当事務所でサポートできませんが、3を検討されるようでしたら、1の法務局自筆証書遺言保管制度と比較してご検討されることをお勧めいたします。
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